わけもわからない不安とか、動悸。
押し込めてた本音。
言い聞かせて、いつしかそれが本当だと
思ってしまってた。
いのちのうた。 11.決着
「いやだ、いやだ、いやだよ!!君になんか、彼女は渡さない!
連れて行かせない!奪わせない!彼女の力はずっと疎まれてきた!
これからもそうさ!そして、僕だけが受け入れる!そうだ、そうだよ・・・
君、なんかに」
まだ一構成員だった頃だった。そう、『能力者』を保護したっていうから、
最初は信じられなかったんだ。でも真実だった。でも、正直わからないことが
多すぎたから、僕は独自に調べることにした。たどり着いた答えは、
彼女の持つ力が、僕の目的・・・もちろんこの国を壊してしまうことを、
叶えることができる強大な力だということだった。
その後、監視の目をかいくぐって、どうにか一人だけで、彼女に会うことに
成功したんだ。その力を使うには、思い通りに動かせる駒にしておくことが
必要だったから、まずは少しでも僕を信用させておこうと思ってね。
そして、多分、
彼女は覚えてない。初めて会ったときのことは。
今まで誰もが、親までもが。異端とののしった、この白い髪を。赤い目を。
君は、『きれい』だと、そう言った。
それがどれだけ僕にとって嬉しかった言葉か、誰も知りはしないだろう。
拒絶された、迫害されたことしかないこの身に、どれだけ染み入ったことか。
初めて受け入れてくれた彼女が、とても愛しかった。目的のためにと自分に言い
聞かせていたのに、監視の目をくぐった刹那の会話はとても心地よくて、
暖かいものと思ってきてたんだ。心から。
だって、唯一僕を受け入れてくれた人だったから。
だからこそ、悩んだ。彼女を、僕の道具として使うのか、と。
でも、僕は目的のためなら何でもすると誓ったはずだ。彼女はそのための
スケープゴート。何を迷う必要がある、使えるものは全て使えばいい。
そうでなければなんのために生きてきた?何のせいで地べたを這いずり回ってきた?
この国を、僕のような存在をたくさん生み出すこの国を、ぶっ壊すためじゃあないか!!
矛盾だった。心がどんどん磨り減った。だから悩むのはやめた。
目的と彼女、ふたつを天秤にかけて少しだけ傾きかけていた彼女のほうを
とらずに目的をとった。じゃないと僕は壊れてしまいそうだったからだ。
長い間願っていたそれは放り出すには既に大きく僕の中に根付きすぎていて
結局はあんなにものぞんでいた拒絶しない、受け入れてくれるであろう人を
道具として見ることにしたのだ。ああそうだ目的のために。僕のために。
そうだった、彼女は僕の大切な道具だった。使うも壊すも僕次第、僕だけの
穢れなき純粋な、そう、彼女は僕だけを知り僕だけに縋り、僕だけの側にある
大切な「道具」だったのに、彼女は僕を捨ててはいけないはずだったのに、
あいつは僕の大切なそれを盗っていくのか。奪っていくのか。
駄目だよ、許さないよ、彼女は、彼女は僕の、大切な・・・
「渡さない」
「クォーツ」
「君は誰にも、渡さない!!!何があっても!!世界が君を見捨てても!
僕は!!」
絶対にずっと一緒に居る。ひとりの君がひとりでないように、違う!
僕が僕の目的を果たすための大切な道具だから、
((それが本当に、僕の本心?))
(クォーツ、と、いったかな。彼は・・・これじゃあまるで)
彼は、サファイアのことを目的のための『手段』や『道具』と見ているものだと
思っていた。相対したときから感じていたことだ。上辺の言葉を織り上げて、
巧みに彼女の力を自分のために使わせようとしていたはずだ。
けれど、今は、どうだろう。
先の冷静さは失われて、叫ぶ言葉から垣間見えるのは、彼女を
『道具』と『見ている』どころか、
(『見ようとして』いる・・・?)
それも無理矢理、思い込もうとしている?
「壊すんだ、こんな国、こんな島、僕みたいな人間を生んだ腐れた
世界なんて、ぶっ壊してやるんだよ!!」
「クォーツ」
「何が『色違い』だ、何が異端だ!!死ねとか消えろとか、僕はもう
たくさんだ!!お望み通り消えてやるよ、死んでやるよ、腐った人間が
全部消えた後ならいくらでも「クォーツ!!!!」」
ふわり、と。暖かい温度に包まれて、僕の洪水のようにごったがえしていた
頭の中がすう、と、静まった。かなたをさまよっていた視線を、おそるおそる
目の前に向けると、コランダムが僕を、抱きしめているようだった。
彼女は泣いてない。頬は乾いていた。なのに、触れる頬には水の感触がある。
(なんだ、これ・・・僕は・・・泣いてたの)
「死んだほうが、よかと、なんて、思わんで」
「コラン、ダム、」
「あんたがあたしに、言った台詞とよ?」
「!!」
再会のあの時、僕が彼女に投げかけた言葉。確かにそうだった。
「・・・でもあれは、・・・君を、また連れ戻すために、」
「あんたが嘘のつもりで言っとっても、それ受け取ったあたしには
ホントの言葉ったい」
「な、」
「あたし、弱か。誰かば憎んだり、後悔したり、そんなことばっかとよ。
でも、そんなあたしに、ことばくれたのは、クォーツったい。
あのときのあたしに名前くれたのも、はげましてくれたのも、
もしあんたがそんつもりで言ったんじゃなくとも、あの頃のあたしの
いのちの支えは、あんただったと!だから、あんたはちゃんと、
いのち持っとる。生きとるよ。生きてても、ええんよ」
だから、死んでやるなんて言わんで。全部憎んだまんまでおらんで。
息が、出来なくなった。なんでだろう。喉が、はりついて。
「・・・クォーツ、だよね」
(昔、泣いてるとき、父さんにああやって抱きしめてもらったことが
あったなぁ。それがすごく暖かくて、頼もしくて、僕はよけいに泣いた覚えがある。)
ルビーは、サファイアに抱かれて、戸惑う顔をしたクォーツに静かに語りかける。
「君は・・・サファイアのこと、道具だなんて、思っていないと思うよ」
「え・・・?」
「僕も、見失ってたことがあるからわかる。君は本当はサファイアのことを・・・」
コランダムのことを。
「どうぐじゃ、なくて・・・?」
『きれい』
(たいせつな、)
封じ込めていた、本当の気持ちは、何だったのだっけ。
目的のためにと、ずっとずっと偽ってきた自分自身。それに気付かない振りをして、
嘘で固めて、最後には偽りを真実だと信じて僕はここまでやってきた。
でも、そうなんだ。初めて彼女と出会ったときのあの感情。
不安と動悸と、それを全て打ち消してくれていた彼女の言葉、彼女の存在、いのち。
君にとって僕しかしないのではなく、僕にとって、君しかいなかった。
大切で大切で、そう、
この感情はきっと。
君を、愛していた。
「っく、ぅ。ぁ、ああああっわぁああああぁぁあっ!」
彼女の細い体を、僕は折れるほど抱きしめ返して、泣いた。

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